有機化学基礎・有機化学2の授業アンケート2026/09/24(木)
今年度前期の担当科目の授業アンケートが集計されてきました。今年度は、授業内に記入する時間をとったためか、回答率が上がり、自由記述のコメントもたくさんいただきました。ありがとうございます。いくつかのコメントを選んで、回答しておきます。
【有機化学基礎】
巻き矢印という概念に驚きました。どことどこがどういう理由で反応するのか電子の動きを表すことで明確になり、素晴らしい技術だと感じました。
巻き矢印に興味を感じてもらって嬉しく思います。現実の電子の動きを単純化し過ぎている、という批判もあるのですが、有機化学の初学者にとって、反応を合理的に理解するための大事なツールだと言えます。
自分があっていると思っていたけど本当は少し違っていたり、書き方でニュアンスが変わってしまったりするところが難しいと思った。
そうなんですよね。これは実は日本語の表現力の問題です。といっても、「国語の勉強を(化学とは別に)」やるのはなかなか大変です。ここで学んでいる「◯◯化学」の内容を言葉で表現することを通して、日本語の表現力も一緒に上げていくように意識するのがよいと思います。
課題の先生の答えを動画を見なくても見れるようにして欲しい
それをやるとね、「答えだけ見て覚える」人が今以上に増えるんですよ。今でも、不合格になった人の大部分はそういう「勉強」のやり方をやっていると推察しています。ダメなやり方をアシストすることは教員としては避けたいです。
YouTubeショートの先生の動画を見てまず名城大学に興味を持ったので、一年生の時から先生の有機化学が学べて嬉しかったです。
ありがとうございます。学科の広報担当に伝えておきます。また、「こんな動画があればいいのに」というようなアイデアがあれば、ぜひ教えてください。
解法を解いて覚えていくことから、なぜそうなるかを説明する解き方に成長できた。
それはすばらしい。そうやって問題に対処していくことができるようになれば、「答えのない問題」にも取り組めるようになります。学問は「答えのない問題」に出会ってからが本番ですからね。
大学の授業は教えてもらうものではなく自分から学びにいくものであるという考え方が印象に残った。
メッセージを受け取ってもらえて嬉しいです。「自分から学ぶ」ことを意識するようになると、大学の価値が何倍にも増えます。大学教員はそれぞれの専門分野について広くて深い見識を持っていますし(別に自慢していません、プロなのだから当たり前です)、大学図書館にもものすごい量の学問的価値が蓄積されています。これらに接するには、「自分から学ぶ」姿勢が絶対に必要です。それを含めての学費(授業料)だ、ということを忘れないでください。
次はもう少しプリントでもいいから積極的に質問したい
はい、ぜひ質問してください。次の「有機化学2」の一番下のコメントもご参照ください。
【有機化学2】
予習してから授業に取り組むと理解度が上がった
そうでしょう?! ちょっと見てくるだけでもぜんぜん違うんですよ。「予習」という作業はハードルが高いと思いますが、これができるようになると、「自分の知らない領域」に自力で踏み込めるようになるんです。世界が変わりますよ。
毎回課題で手一杯で有機化学に時間をたくさん使えなかった。
2年生前期は応化実験1の負荷が大きいので、これは仕方がないと思います。それでも、試験前に集中して勉強して理解度を高めてくれた人がけっこういたな、と今回は感じています。
pdfで出すようになったからか、来る人が減って悔しい。
別にあなたが悔しがる必要ないんじゃないですか。確かに、出席登録だけして消えて、レポートも先輩のを書き写して出して、それで単位をとって喜んでいる人を見たらちょっと腹立たしいかもしれません。でも、そんな残念な人のことは放っておいて、自分を磨く努力を続けていけばいいと思いますよ。その努力は必ず自分に返ってきます。努力をしなかったことも自分に返ってきます。それだけのことです。
WebClassでの提出も授業中から出せるようにして欲しい
授業が終わったその時刻から WebClass 開いてるんですよ? 終わってから出しなさいよ。その数分すら惜しんで課外活動に飛んでいきたいんですか? 何しに大学に来てるんですか? 私にとっては、その数分が「追加説明をできる貴重な数分」なので、ここは譲りません。私の講義を真剣に聞いている人なら、同意していただけると思います。
印刷するときに1つずつダウンロードしてアップロードすることに時間がかかるため、webclassの資料を1つにまとめていただけたらうれしいです。
スライド資料は1個のファイルにまとめた方がいいかもしれませんね。PDFにしおりをつけられるといいんだけど、私の手元のアプリではそこまで対応してないので、ちょっと迷うところです。他の人の声も聞いてみたいです。
春休みに先に講義資料を見て問題を解いたら今学期は授業理解度が去年の有機基礎、1よりも高かったように感じます
活用してくれてありがとうございます。今回の講義ではアナウンスしそびれたのですが、実は有機化学基礎・有機化学1・有機化学2については、直近1年分の講義資料をすべてアーカイブして学内限定で公開しています→「名城・理工・応用化学 有機化学 旧講義資料」。少しでも先取り学習しておくと、理解度は格段に上がると思います。試してみてください。
講義の内容を全てメモしていたが、本当に重要なところは、パワーポイントに重要などと書いてわかりやすくして欲しい。
いやいや、人の話の中で、どこが重要なのかを「自分で」判断する能力ってめちゃくちゃ大事ですよ。私の講義なんて、どこが重要かはわかりやすい方だと思います(内容がわかりやすいかどうかはともかくとして)。この講義でパワポに「重要」と書いてほしい、というレベルじゃ、社会人になったとき使い物になりませんよ。自分の力不足を棚に上げて甘っちょろいリクエストをしてちゃいけません。
授業中の課題の解説を書いて提出するだけになってしまうから、まとめ直すためにももう少しwebクラスの課題の提出期限を伸ばして欲しい。
「まとめ直す」のは課題解説の前にやりましょう。「課題を解くこと」が勉強のすべてになってませんか? 課題とは別に、学んだ内容を「自分で再構築していく」のが、大学にふさわしい学びというものですよ。
ネットで課題を出すのは忘れることが多いので、個人の勝手な希望としては今まで通りオフラインで回収にして欲しい。
授業時間内に回収する時間がもったいないためオンラインにしたのです。「忘れることが多い」ことに教員が対応する必要はないと思います。
寝落ちしてしまって提出できないことがあった。
確かにそれはありそうだな、と思いました。途中で1時間締め切りを伸ばしたのですが、「翌日の朝」までにすればよかったかなと思っています。ただ、先にも触れましたが、講義内容をまとめるのは課題解説よりも前にやっておくのが筋なので、原則「当日中」という方針は守りたいと思います。
提出物を通じて質問できたのが良かった。自分がどこまで理解できているのかよく分からず、質問すること自体が苦手なのですが、課題を通して質問できた点と、こういう解釈で良いのかという確認も答えて貰えて自信が持てた点が特に良かった。
「質問する」って結構ハードルが高いですよね。おっしゃる通り、自分の考えをある程度まとめないと、質問しようがないですからね。「こういう解釈で良いのかという確認」は、自分の考えを整理するためにとても有効な作業だと思います。課題に書かれた質問には可能な限り回答しますので、うまく活用してください。(ちゃんと質問だとわかるように書いてくださいよ。「〜なのか」とメモみたいに書いてあるものは、単なる独り言だと思ってスルーすることがあります)
AI時代にロジカルシンキングは無意味、って本当?2026/09/08(火)
エンジニア向けの転職サイト「エンジニアtype」に、メディアアーティストの落合陽一さんの記事が出ていました。
エンジニアtype - 技術者のキャリアを考えるWebマガジン
【落合陽一】AIを前にロジカルシンキングは無意味。エンジニアなら「仕事で使える“本物”」で勝負してほしい - エンジニアtype | 転職type
生成AIの民主化が進み、AIエージェントが自律的にタスクをこなしていく今、何度目とも知れない「人間に残される価値」という問いが私たちには突きつけられている。メディアアーティストの落合陽一さんは、かつてエンジニアの武器とされていた「ロジカルさ」を脱ぎ捨てた先にある、新たな武器の存在を示した。
タイトルにある「AIを前にロジカルシンキングは無意味」という言葉に強い違和感を持ったので、一読してみました。まあ、落合陽一さんはこういう「ちょっと煽った感じ」をウリにしているようなところもありますから、こうやって紹介することでページビューにまんまと貢献させられているわけですけどね(苦笑)。
落合さんはアーティストですから、「最も大事なスキルは、ロジカルシンキングではなく、根拠が不確かな『直感』と、それに基づく『行動』だ」というのは、ごく自然な認識だと思います。ただ、それを「エンジニア」という職種に広げてよいのか?というのは、強く疑問を感じます。
今やロジカルシンキングはAIが得意とする最たる分野。だとするなら、人間がやるべきは、筋道を立てて未来を予測することではなく、直感に従って行動を起こし、興味がある領域に飛び込むことではないでしょうか。直感ですらAIに投げれば、ロジカルに組み立て直してくれる便利な時代ですからね。
そうなんだろうか。生成AI、特にLLM(大規模言語モデル)って、大量のテキストデータを元に、「それらしい言葉の並び」を見つけ出して出力するものですよね。そこには、人間の思考と同じ意味での「ロジック」は存在しません。出力が明確に言語化されているから「それっぽく」見えるだけです。私は重課金するほどの大規模な生成AIは使ったことがないのですが、原理的にどんなに学習量が増えても、「それっぽく」見せる能力が高くなるだけだろう、と思っています。(LLMの原理に詳しい方から反論があれば、この見解をいつでも撤回する用意はあります。)
以前、共通テストの国語の問題について書いた時に、「文章中に散らばった情報を集めて、情報同士を繋ぎ合わせて整理していく」という作業は、「筋道を立てて考える」能力とは方向性が違う、と述べました(「共通テスト「国語」第3問」2025/01/29)。生成AIが得意とするのは前者で、そこは人間が頑張らなくてもいい分野だ、と私も思います。でも、「ロジカルシンキング」は後者であって、生成AIはそこまでカバーしてくれないんじゃないかな、と思うのです。
「直感が大事」という落合さんの主張には同意します。けれども、「ロジカルシンキングも同じぐらい大事」だと私は考えます。生成AIがどれだけ進歩しても、そこは変わらないんじゃないかと思います。
ちなみに、少し話題が逸れるのですが、落合さんの以下の主張についても、ちょっと首をかしげました。
AIの進化に関連して、僕はある種の残酷さを感じています。それは、これほどまでにAIが普及しても、質の高いものを作れる人がそれほど増えていないという現実です。
歌声合成技術である「VOCALOID(ボーカロイド)」が生まれた時は、ハイクオリティーな楽曲を作るクリエイターがどんどん出てきました。Photoshopがリリースされた時も、PCを使って音楽制作を行うDTM(デスクトップミュージック)が普及した時も、高品質な作品が多く生み出されたはずです。
ですが今回の生成AIでは、同じような現象があまり起きていないように思えます。
私は趣味で長くDTMをやってますけど、「DTMが普及したために高品質な作品が多く生み出された」とは思いません。音楽を楽しむ裾野がずっと広がったのは確かだし、それはとても素晴らしいことなんだけど、「アーティスト」の視点で「高品質」と言える作品なんてごく僅かです。そういう作品を作れる人の割合は、DTM 以前と大して変わってないと思います。また、そういう人は、優れた音楽的直感を持っていると同時に、「自分のやりたいこと」を語る言葉も持っています。映像方面や、落合さんが専門とされるメディア系のアートだとまた違うのかもしれませんけど、音楽に関しては「ロジック」を持っている人が強いのは間違いないですね。(本当に独創性が発揮されるのは、「ロジックをわかっている人があえてそこから外す」時です。バッハやベートーヴェンなどの古典的な名作には随所にそれがあります。)
話が逸れてしまいましたけれども、「ロジカルシンキングは無意味」というのは、ずいぶん乱暴だし、一面的なものの見方だな、と思います。あまりこういう無責任な「煽り」に乗せられないように、注意しないといけませんね。
有機化学基礎・有機化学2の成績2026/08/28(金)
前期の成績が確定しました。1年生配当の「有機化学基礎」と2年生配当の「有機化学2」の成績分布を公開します。前回はこちらです。
まず、1年生配当の有機化学基礎の成績分布です。
昨年まで合格率が3年連続で 83% だったのに、今年は 55%。ちょっと考えられないほどの急落です。今年からカリキュラムが変わりましたが、本講義の内容はほとんど変えてないし、試験問題のレベルもあまり変わっていません。ただ、少し「説明」の比重は多くなったかもしれず、あちこち減点されて合格点に届かなかった人が増えた、とは言えそうです。
「説明」で何を書けばよいのかわからない、という人もいるでしょう。でも、講義中に、「何がポイントなのか」は繰り返しお話ししているわけです。それをちゃんと聞いて、自分の解答に反映させないといけない。「記述式問題の模範解答を出して欲しい」という要望もいただいたのですが、そんなことを求めているようではダメだと思うんですよ。人の話を聞いて、その内容を理解して、自分の言葉で再現する、というのは、知的生産作業の基本じゃないですか?
話の要約なんて、ChatGPT に任せればいいんだ、とか思ってませんか? ネットワークが使えない状況に放り込まれたらどうするんですか? それに、生成AIの利用料金って高いんですよ? 社会人になったとき、同じ内容の話をまとめて理解するのに、自分の能力だけでできる人と、AI使わないとできない人と、どちらが大事な仕事を任せてもらえると思いますか? そういう仕事を任せてもらえる人になるために、大学に来てるんじゃないんですか?
次に、有機化学2の成績分布です。
こちらは逆に、去年の 50% から突然跳ね上がって 67% になりました。この結果については、私はあまり楽観はしていません。しっかり勉強してくれている人は確かにたくさんいたのですが、たまたまヤマが当たったんだろうな、と感じる人もいました。そういう人は、運がよければ60点台前半、悪ければ50点台後半、という印象です。「単位を取るゲーム」を攻略している感覚なんでしょうね。
どのように大学生活を過ごすかは、それぞれの人が自分で選べばよいことですが、私の思うところでは、大学で過ごす間に大事なのは、誠実・謙虚に「知の体系」と向き合うことだと思います。「知識」ではなくて「知」とあえて書きました。「知識」だけなら、「調べる」だけでもある程度手に入ります。でも、大学で行われる「知」の探求は、単なる知識の集合ではなくて、「それをどのように組み合わせて新しいものを生み出すか」という創造的行為そのものです。少ない労力でどれだけ単位をゲットできるか、というゲーム的なものとは全く対極にあるものです。安くない学費を払う対価として、何を自分が身につけられるか、よく考えて過ごしてほしいなと思います。
オープンキャンパスやります!(今年は模擬講義担当)2026/07/31(金)
明日からオープンキャンパスです! 天白キャンパスと八事キャンパス同日です。事前予約が必要ですので、お急ぎください!
今年も、「共通講義棟東」という建物の2階で研究紹介をやっております。応用化学専攻の教員・学生・大学院生がお待ちしております。進路について、勉強のやり方について、キャンパスライフについて等々、何でもお尋ねください。また、「化学・物質学科 材料機能工学専攻」もすぐ近くで研究紹介を展開しています。合わせてどうぞ。
例年人気のラボツアーですが、今年は整理券配布を2回に分けて行うことにしました。午前中のツアーは朝10時から、午後のツアーは昼13時から整理券を配布します。ぜひご参加ください。
今年は、模擬講義を担当します。「人工分子で光合成を組み立てる」というタイトルです。光合成とは何か、それを人工的に行うとはどういうことか、現在地はどこか、等々、研究者の立場でお話しします。太陽エネルギーの利用について、何か気づきを持っていただければ幸いです。お待ちしております。
「化学・物質学科」の YouTube チャンネルも、学科の広報担当が頑張って更新してくれています。こちらもぜひご覧ください。
配位子交換反応の速度論解析2026/07/13(月)
先日投稿した論文のレフェリーコメントで、配位子交換反応の速度論解析を求められました。こんな反応です。
測定は難しくありません。1H NMR で A, B, C, D のシグナルをそれぞれ分離して観測できるので、たとえば C の生成率を積分強度から求めて、その時間変化を解析すればよいわけです。
簡単じゃん、と指数関数でカーブフィッティングして、k1とk-1を決めて、さて本文を書こうとしたとき、ふと引っかかりました。「え、速度定数の単位はどうなる? これ二次反応だよな? 今自分一次反応で解析しなかったか??」
そうです。単純な指数関数でフィッティングする、というのは、一次反応の速度式を仮定していることになります。ここでは、[A]0 = [B]0, [C]0 = [D]0 = 0 の条件で反応させているので、擬一次の条件には当てはまりません。あかんわ、速度式を立てるところからやり直しやん……
これが実はなかなか難物でした。手持ちの教科書をいくつかめくってみましたが、記述がありません。可逆反応じゃない系なら、[A]0 = [B]0 の反応は「二次反応の特別な場合」として紹介されているのですが、可逆な系の取り扱いを発見することができませんでした。しゃあない、自分で解くか。
[A]0 = [B]0, [C]0 = [D]0 = 0 という初期条件のもとで、[A] についての速度式を立てると、下のようになります(以下、速度式中では、濃度を示す角カッコを省略しています)。
少し見通しが悪いので、転化率 x = (A0 – A) / A0 を使い、kf = A0k1, kb = A0k-1 と置き換えて、以下のように書き換えます。
このままでも解けますが、あとでフィッティングすることを考えると、「平衡に到達した時の転化率」 xeq を独立のパラメータにしておくのが便利です。x = xeq のとき、dx/dt = 0 になることから、以下の関係式が得られます。
これを使って一つ前の式から kb を消去して、下の式を得ます。
この微分方程式を解きます。両辺の逆数をとって、右辺を部分分数分解して、x について積分すると t = … という形になり、それを x について解きます。できますよね? できてください(笑)
kapp と書いたのは、「見かけの速度定数」で、下のように定義されます。
kapp と xeq をパラメータとして、カーブフィッティングを行います。
先ほどのカーブフィッティングのプロットとほとんど変わりませんが、パラメータの意味が明確に決まっていることが大事です。ここから二次速度定数を決めて、適切に議論を進めることができました。



