名城大学理工学部 化学・物質学科 永田研究室
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ブログ「天白で有機化学やってます。」 ブログ「天白で有機化学やってます。」

AI時代にロジカルシンキングは無意味、って本当?2026/09/08(火)

エンジニア向けの転職サイト「エンジニアtype」に、メディアアーティストの落合陽一さんの記事が出ていました。

エンジニアtype - 技術者のキャリアを考えるWebマガジン

【落合陽一】AIを前にロジカルシンキングは無意味。エンジニアなら「仕事で使える“本物”」で勝負してほしい - エンジニアtype | 転職type

生成AIの民主化が進み、AIエージェントが自律的にタスクをこなしていく今、何度目とも知れない「人間に残される価値」という問いが私たちには突きつけられている。メディアアーティストの落合陽一さんは、かつてエンジニアの武器とされていた「ロジカルさ」を脱ぎ捨てた先にある、新たな武器の存在を示した。

タイトルにある「AIを前にロジカルシンキングは無意味」という言葉に強い違和感を持ったので、一読してみました。まあ、落合陽一さんはこういう「ちょっと煽った感じ」をウリにしているようなところもありますから、こうやって紹介することでページビューにまんまと貢献させられているわけですけどね(苦笑)。

落合さんはアーティストですから、「最も大事なスキルは、ロジカルシンキングではなく、根拠が不確かな『直感』と、それに基づく『行動』だ」というのは、ごく自然な認識だと思います。ただ、それを「エンジニア」という職種に広げてよいのか?というのは、強く疑問を感じます。

今やロジカルシンキングはAIが得意とする最たる分野。だとするなら、人間がやるべきは、筋道を立てて未来を予測することではなく、直感に従って行動を起こし、興味がある領域に飛び込むことではないでしょうか。直感ですらAIに投げれば、ロジカルに組み立て直してくれる便利な時代ですからね。

そうなんだろうか。生成AI、特にLLM(大規模言語モデル)って、大量のテキストデータを元に、「それらしい言葉の並び」を見つけ出して出力するものですよね。そこには、人間の思考と同じ意味での「ロジック」は存在しません。出力が明確に言語化されているから「それっぽく」見えるだけです。私は重課金するほどの大規模な生成AIは使ったことがないのですが、原理的にどんなに学習量が増えても、「それっぽく」見せる能力が高くなるだけだろう、と思っています。(LLMの原理に詳しい方から反論があれば、この見解をいつでも撤回する用意はあります。)

以前、共通テストの国語の問題について書いた時に、「文章中に散らばった情報を集めて、情報同士を繋ぎ合わせて整理していく」という作業は、「筋道を立てて考える」能力とは方向性が違う、と述べました(「共通テスト「国語」第3問」2025/01/29)。生成AIが得意とするのは前者で、そこは人間が頑張らなくてもいい分野だ、と私も思います。でも、「ロジカルシンキング」は後者であって、生成AIはそこまでカバーしてくれないんじゃないかな、と思うのです。

「直感が大事」という落合さんの主張には同意します。けれども、「ロジカルシンキングも同じぐらい大事」だと私は考えます。生成AIがどれだけ進歩しても、そこは変わらないんじゃないかと思います。

ちなみに、少し話題が逸れるのですが、落合さんの以下の主張についても、ちょっと首をかしげました。

AIの進化に関連して、僕はある種の残酷さを感じています。それは、これほどまでにAIが普及しても、質の高いものを作れる人がそれほど増えていないという現実です。

歌声合成技術である「VOCALOID(ボーカロイド)」が生まれた時は、ハイクオリティーな楽曲を作るクリエイターがどんどん出てきました。Photoshopがリリースされた時も、PCを使って音楽制作を行うDTM(デスクトップミュージック)が普及した時も、高品質な作品が多く生み出されたはずです。

ですが今回の生成AIでは、同じような現象があまり起きていないように思えます。

私は趣味で長くDTMをやってますけど、「DTMが普及したために高品質な作品が多く生み出された」とは思いません。音楽を楽しむ裾野がずっと広がったのは確かだし、それはとても素晴らしいことなんだけど、「アーティスト」の視点で「高品質」と言える作品なんてごく僅かです。そういう作品を作れる人の割合は、DTM 以前と大して変わってないと思います。また、そういう人は、優れた音楽的直感を持っていると同時に、「自分のやりたいこと」を語る言葉も持っています。映像方面や、落合さんが専門とされるメディア系のアートだとまた違うのかもしれませんけど、音楽に関しては「ロジック」を持っている人が強いのは間違いないですね。(本当に独創性が発揮されるのは、「ロジックをわかっている人があえてそこから外す」時です。バッハやベートーヴェンなどの古典的な名作には随所にそれがあります。)

話が逸れてしまいましたけれども、「ロジカルシンキングは無意味」というのは、ずいぶん乱暴だし、一面的なものの見方だな、と思います。あまりこういう無責任な「煽り」に乗せられないように、注意しないといけませんね。

有機化学基礎・有機化学2の成績2026/08/28(金)

前期の成績が確定しました。1年生配当の「有機化学基礎」と2年生配当の「有機化学2」の成績分布を公開します。前回はこちらです。

まず、1年生配当の有機化学基礎の成績分布です。

昨年まで合格率が3年連続で 83% だったのに、今年は 55%。ちょっと考えられないほどの急落です。今年からカリキュラムが変わりましたが、本講義の内容はほとんど変えてないし、試験問題のレベルもあまり変わっていません。ただ、少し「説明」の比重は多くなったかもしれず、あちこち減点されて合格点に届かなかった人が増えた、とは言えそうです。

「説明」で何を書けばよいのかわからない、という人もいるでしょう。でも、講義中に、「何がポイントなのか」は繰り返しお話ししているわけです。それをちゃんと聞いて、自分の解答に反映させないといけない。「記述式問題の模範解答を出して欲しい」という要望もいただいたのですが、そんなことを求めているようではダメだと思うんですよ。人の話を聞いて、その内容を理解して、自分の言葉で再現する、というのは、知的生産作業の基本じゃないですか?

話の要約なんて、ChatGPT に任せればいいんだ、とか思ってませんか? ネットワークが使えない状況に放り込まれたらどうするんですか? それに、生成AIの利用料金って高いんですよ? 社会人になったとき、同じ内容の話をまとめて理解するのに、自分の能力だけでできる人と、AI使わないとできない人と、どちらが大事な仕事を任せてもらえると思いますか? そういう仕事を任せてもらえる人になるために、大学に来てるんじゃないんですか?

次に、有機化学2の成績分布です。

こちらは逆に、去年の 50% から突然跳ね上がって 67% になりました。この結果については、私はあまり楽観はしていません。しっかり勉強してくれている人は確かにたくさんいたのですが、たまたまヤマが当たったんだろうな、と感じる人もいました。そういう人は、運がよければ60点台前半、悪ければ50点台後半、という印象です。「単位を取るゲーム」を攻略している感覚なんでしょうね。

どのように大学生活を過ごすかは、それぞれの人が自分で選べばよいことですが、私の思うところでは、大学で過ごす間に大事なのは、誠実・謙虚に「知の体系」と向き合うことだと思います。「知識」ではなくて「知」とあえて書きました。「知識」だけなら、「調べる」だけでもある程度手に入ります。でも、大学で行われる「知」の探求は、単なる知識の集合ではなくて、「それをどのように組み合わせて新しいものを生み出すか」という創造的行為そのものです。少ない労力でどれだけ単位をゲットできるか、というゲーム的なものとは全く対極にあるものです。安くない学費を払う対価として、何を自分が身につけられるか、よく考えて過ごしてほしいなと思います。

オープンキャンパスやります!(今年は模擬講義担当)2026/07/31(金)

明日からオープンキャンパスです! 天白キャンパスと八事キャンパス同日です。事前予約が必要ですので、お急ぎください!

今年も、「共通講義棟東」という建物の2階で研究紹介をやっております。応用化学専攻の教員・学生・大学院生がお待ちしております。進路について、勉強のやり方について、キャンパスライフについて等々、何でもお尋ねください。また、「化学・物質学科 材料機能工学専攻」もすぐ近くで研究紹介を展開しています。合わせてどうぞ。

例年人気のラボツアーですが、今年は整理券配布を2回に分けて行うことにしました。午前中のツアーは朝10時から、午後のツアーは昼13時から整理券を配布します。ぜひご参加ください。

今年は、模擬講義を担当します。「人工分子で光合成を組み立てる」というタイトルです。光合成とは何か、それを人工的に行うとはどういうことか、現在地はどこか、等々、研究者の立場でお話しします。太陽エネルギーの利用について、何か気づきを持っていただければ幸いです。お待ちしております。

「化学・物質学科」の YouTube チャンネルも、学科の広報担当が頑張って更新してくれています。こちらもぜひご覧ください。

配位子交換反応の速度論解析2026/07/13(月)

先日投稿した論文のレフェリーコメントで、配位子交換反応の速度論解析を求められました。こんな反応です。

測定は難しくありません。1H NMR で A, B, C, D のシグナルをそれぞれ分離して観測できるので、たとえば C の生成率を積分強度から求めて、その時間変化を解析すればよいわけです。

簡単じゃん、と指数関数でカーブフィッティングして、k1k-1を決めて、さて本文を書こうとしたとき、ふと引っかかりました。「え、速度定数の単位はどうなる? これ二次反応だよな? 今自分一次反応で解析しなかったか??」

そうです。単純な指数関数でフィッティングする、というのは、一次反応の速度式を仮定していることになります。ここでは、[A]0 = [B]0, [C]0 = [D]0 = 0 の条件で反応させているので、擬一次の条件には当てはまりません。あかんわ、速度式を立てるところからやり直しやん……

これが実はなかなか難物でした。手持ちの教科書をいくつかめくってみましたが、記述がありません。可逆反応じゃない系なら、[A]0 = [B]0 の反応は「二次反応の特別な場合」として紹介されているのですが、可逆な系の取り扱いを発見することができませんでした。しゃあない、自分で解くか。

[A]0 = [B]0, [C]0 = [D]0 = 0 という初期条件のもとで、[A] についての速度式を立てると、下のようになります(以下、速度式中では、濃度を示す角カッコを省略しています)。

少し見通しが悪いので、転化率 x = (A0 – A) / A0 を使い、kf = A0k1, kb = A0k-1 と置き換えて、以下のように書き換えます。

このままでも解けますが、あとでフィッティングすることを考えると、「平衡に到達した時の転化率」 xeq を独立のパラメータにしておくのが便利です。x = xeq のとき、dx/dt = 0 になることから、以下の関係式が得られます。

これを使って一つ前の式から kb を消去して、下の式を得ます。

この微分方程式を解きます。両辺の逆数をとって、右辺を部分分数分解して、x について積分すると t = … という形になり、それを x について解きます。できますよね? できてください(笑)

kapp と書いたのは、「見かけの速度定数」で、下のように定義されます。

kappxeq をパラメータとして、カーブフィッティングを行います。

先ほどのカーブフィッティングのプロットとほとんど変わりませんが、パラメータの意味が明確に決まっていることが大事です。ここから二次速度定数を決めて、適切に議論を進めることができました。

AIコピペの外国語課題を提出する大学生2026/06/20(土)

大学生(535人)への調査で、「外国語課題の答えとして、AI生成結果をそのまま提出したことがあるか」という問いに対して、36%が「ある」と回答したそうです。

NEWSjp

【独自】AIコピペ提出経験、36% 大学生、外国語課題の翻訳依存 | NEWSjp

AIで生成した翻訳文などをそのまま使い、外国語授業の課題を提出した経験があると答えた大学生が36%に...

(2026年06月20日 01:04)

提出した理由は「時間がない」「禁止されていなかった」「自力でできない」の順だったとのことです。多くの学生にとって、外国語科目は「専門科目」ではなく、「一般教養」の一つとして課されているわけですが、「何のためにその科目を学ぶのか」があいまいになっているんだろうな、と思います。

「外国語なんて学んでもあまり意味がない、その時間を他の有意義なことに使いたい」と考えている人は、最小の手間と時間で課題をこなそうとするだろうし、そうなればAIを使って生成した「解答」を提出する、という行動に出るのは自然な流れです。教員側でできる対策としては、レポート課題の配点をなるべく小さくして、スマホ等持ち込み不可の定期試験一発勝負で単位認定する、ということぐらいしかないのでしょう。

そもそもなぜ、ほとんどの大学の教育課程で、外国語科目が必修とされているのでしょうか。大学関係者の頭が古いからだ、と言いたい人もいるでしょうし、それを全否定するつもりはありません。「頭が古い」というよりは、教育体系というのは本質的に保守的で、ゆるやかな微調整を続けていくべきものです。時代や環境が変わっても、人間そのものは急には変わりません。Google翻訳のサービスが開始されたのは2006年ですが、20年やそこらでは、「人間にとって重要なもの」はそんなに変わるものではないのです。

私は外国語の専門家ではなく、外国語教員でもないので、「学ぶ」方の立場でしか語れないのですが、それでも「外国語を学ぶ」ことの重要性については言いたいことがたくさんあります。これまでにも何度か取り上げてきた話題ですが(「Google翻訳は使えるか」「高校英語の教材」「Google翻訳の功罪」)、改めて考えてみたいと思います。

まず、外国語(特に英語)を学ぶことによって、日本語の読解力・表現力は確実に上がります。外国語の表現と日本語の表現を並べて見ることは、日本語の表現を見直すきっかけになります。特に、日本語では文法上「主語」の位置付けがあいまいですが、英語の文法では主語が明確に決まっています。科学的作文・文章読解においては、「文意を明確にすること」が最優先であり、そのために必要なのは「何が主語なのか」を明らかにすることです。英語の文で「主語を明らかにする」考え方を身につけると、日本語の作文・読解にも好影響があります。これはもちろん「直訳調の文を良しとする」という意味ではなく、「主語は何か、動作の主体は何か」を意識して言語表現ができるようになる、という意味です。(このためには、「英文法」をきちんと勉強していることが必要です。「会話」中心の英語だけでは、この効果はあまり期待できません。)

もう一つは、ネット上の情報の多くが英語で発信されていることです。最近は自動翻訳の精度が上がってきたため、英語を読めなくても情報を得ることができるようになってきましたが、それでも「え、これ何言ってんだ?」という文章に出会うことは少なくありません。「原文を読む」というリンクをクリックして、「あ、そういうことね」とようやく納得することになります。英語が読めないと、「これ何言ってんだ?」で止まることになりますよね。それはやっぱりまずいんじゃないでしょうか。

さらに、言語を学ぶというのは、その言語を使っている人たちの文化を学ぶことでもあります。これについては、私が語るべきことではないので、外国語専門の先生方にぜひ語っていただき、私からは「先生方の金言に耳を傾けてください」と言うにとどめておきます。

これだけの「学ぶ理由」を知った上で、なおかつ「時間がないからAIコピペレポートを出す」という行動をとるのであれば、その程度の(薄っぺらい)人間を目指している、ということになります。そんな残念な学生が一人でも減るように、働きかけていきたいと思っています。

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