エノラートのアルキル化2018/06/19(火)
エノラートのアルキル化は、有機合成でよく利用される反応の一つです。特に、1,3-ジカルボニル化合物のアルキル化は、有用な反応です。
ところが、実際にやってみると、一定の割合でジアルキル化された生成物ができてきます。生成物が原料エノラートとの間で酸塩基平衡を起こすので、この副反応は避けられないわけですね。
この問題を、先日の有機化学演習で考えてもらいました。すると、当然のことながら、「生成物の割合はどうなるのですか」という質問が出てきます。
実は、さしたる根拠もなく「平衡が十分に速いんだったら統計的分布=1:2:1になるんじゃね?」と思い込んでいました。しかし、質問に答えるとなると、「根拠もなく」ではいけませんから、速度式を真面目に立てて答えを出そうと考えました。ところが、これが結構難物なのです。
反応式はこうなります。
初期状態を「アセチルアセトンのエノラート:ヨウ化エチル=1:1」の状態とすると、微分速度式は下のようになります。
k1 = k2 <<k3 = k4 とか、式が簡単になりそうな仮定を入れて解こうとしたのですが、なかなかうまくいきません。ならば数値計算だ、と、プログラムを書いてしまいました。こちらです。(スマホではうまく操作できません。ゴメン。) k3, k4 を大きな値にして計算してみると、下のようになりました。えー、1:2:1じゃないじゃん! ほぼ1:1:1、わずかにモノアルキル化生成物が多い。
もちろん、エノラートの平衡が遅いと仮定すると、下のように、モノアルキル化生成物(緑の線)が主生成物になります。
教訓は、「やっぱり速度論の知識は大事」。式が出てくるとよくわからん、とか言ってないで、ちゃんと勉強しておかないといけませんね。もう一つ、JavaScript って案外速い。この計算、速度定数をスライダーで変えるたびに 1000万点数値計算しているはずなんですけど、パソコンだと1秒もかかりません(Mac 上の FireFox で試しました)。JavaScript は遅い、と思い込んでいたので、意外でした。