「理科系の作文技術」(木下是雄著)2017/02/28(火)
いろんな意味で「今さら」なんですが、中公新書の「理科系の作文技術」を買いました。研究室の備品として、4冊まとめ買い。
初版は1981年と、かなり古い本なのですが、内容は色あせてはいません。特に、「文章の組立て」「パラグラフ」「文の構造と文章の流れ」「はっきり言い切る姿勢」「事実と意見」の5章は、明解な文を書くための王道と言ってもよい内容と言えます。技術系の文書を書く時に、ここに書かれた内容が頭に入っていることは、絶対の前提条件でしょう。頭に入っていたとしても、それを実践するには経験を積む必要はありますが。
「わかりやすく簡潔な表現」の章にも、有用なアドバイスが多く含まれていますが、著者の個人的な嗜好がかなり入っていますので、取捨選択するべきです。私が特に好まないのは、文を「〜だ。」で終えることです。著者は、「〜である。」と「〜だ。」を適度に混ぜて使うことを推奨していますが、私は「〜だ。」を口語的に過ぎると感じます。ここは好みの分かれるところかも知れません。以前も書きましたが、技術系の文書に関しては、「文末がなるべく揃わないようにする」という工夫はあまり意識しない方がよいと思っています。また、筆者はセミコロンの使用を勧めており、実際に文中でも使用していますが、あまり効果は上がっていないと感じます。私自身、英語の文を読む時はコンマ・セミコロン・コロンの意味の違いをはっきり認知できるのですが、日本語の文でセミコロンが現れると、違和感の方が先に立って、文の意味がすっきり頭に入って来ません。日本語文でのセミコロンの多用はお勧めできないな、と思います。
「執筆メモ」の章にある、原稿用紙の使い方・校正記号・図や表の作り方は、パソコンで文書を作成するのが当たり前になった現在ではさすがに古くなりました。それでも、現在でも通用する重要なことがたくさん書かれています。たとえば、9.3 の「単位・量記号」。気体定数の単位は J/mol•K ではなくて、J/(mol•K) とカッコをつけないといけないんですよ(もちろん J mol–1 K–1 も OK)。あと、161 ページにさりげなく書かれている「量を表す文字記号が文頭にくることはできるだけ避ける」というのも大事な心得です。化学分野でよく出てくることを付け加えると、化合物番号や量を表す数値も、文頭にこないようにします。「1a を無水酢酸で処理して…」「100 mL のメタノールをフラスコに…」という文は、「化合物 1a を無水酢酸で処理して…」「メタノール 100 mL をフラスコに…」と書き換えます。
著者は大正生まれの方です。全体に、文体はやや古めかしく、例文も難解なものが多く含まれます。ある程度、自分で「理科系の作文」をやってみて、「どうもうまく書けないな」という経験を積んでからでないと、読みこなせない部分もあるでしょう。最初に読んで「なんだかよくわからない」と挫折してしまった人も、ある程度経験を積んでからもう一度読み直してみると、いろいろ発見があるんじゃないかなと思います。長くベストセラーを続けているのもうなずける本です。