名城大学理工学部 応用化学科 永田研究室
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「論文の教室」(戸田山和久著)2013/09/03(火)

論文の教室」(戸田山和久著、NHKブックス)を読みました。大学生を主な対象として、レポート・論文の書き方を指南する本です。論文書きが苦手な学生と、筆者の分身とおぼしき大学教員との対話形式で進んで行くので、文章が苦手な人でも割合読みやすいのではないでしょうか。お勧めです。

本書は、「キミは論文って何かを知っているか」「論文の種を蒔こう」「論文を育てる」の三部から成っています。それぞれ、「論文とはどういう形の文章なのか」「論文の構造の作り方」「論文の文章の書き方」を解説するものです。論文が苦手な人にとりわけ力になりそうなのが、第2部・第6章の「論証のテクニック」と、第3部・第7章の「『パラグラフ・ライティング』という考え方」でしょう。

「論証のテクニック」では、論理学を基本にして、「よい論証」と「ダメな論証」はどのように違うのが明らかにされます。本文で挙げられた例を見てみれば、「ダメな論証」を案外日常的に使ってしまいがちであることに気づきます。「雨が降れば地面が濡れる」(正しい前提)→「今地面が濡れている」(正しい事実)→「だから雨が降ったに違いない」(誤った論証)、というのが一例です。もちろん、100%正しい論理だけを積み上げるのは現実の世界では難しいため、「確からしい論証」を使うことも必要になります。本書ではその点についても、論理学の立場から「どのように論を進めれば確からしいと言えるか」をわかりやすく解説しています。

「『パラグラフ・ライティング』という考え方」は、タイトルの通り、論説文を書くのに必須のテクニックである「パラグラフ・ライティング」について解説する章です。「パラグラフ・ライティング」とは、自分の主張したい内容ごとにパラグラフ(段落)を分け、パラグラフ内の文同士・パラグラフ同士の論理的なつながりを明らかにすることで、文章全体の論理構造を作り上げる技法です。論文だけでなく、「人に何かを説明するための文章」を書くときにはとても有用なテクニックと言えます。本当は中学・高校あたりで訓練して身につけるべき技術ではないかと思うのですが…

本書は主に文科系のレポート・論文を念頭に置いて書かれていますが、内容はもちろん理科系の論文にもあてはまります。ただ一つ、理科系で実験のレポート・論文を書く場合には「できるだけ同じ文末が二つ続かないようにする(234ページ)」というアドバイスは重視しない方がよいと思います。というのも、実験系の論文だと「実験結果は過去形、考察は現在形で書く」という習慣があるため、文末表現のバリエーションが限られてしまうのです。文末をそろえないようにしようと意識しすぎて、時制が不統一になると、文章の論理構造が失われてしまいます。実験系の人は、この点だけは注意しておくとよいでしょう。

ところで、巻末付録「おすすめの図書など」の最後に「文章読本さん江」(斎藤美奈子著、ちくま文庫)が挙げられています。この本は、数ある「文章読本」と銘打つ本を片っ端から撃墜した希代の名評論です。文章読本を書く人にとって、もはや避けて通れなくなってしまった罪作りな本でもあります。文章読本の評論ではありますが、日本の作文教育の歴史を掘り起こしている章があって、それがムチャクチャに面白い。本を読むのは好きなのに、小学校の読書感想文や生活作文にはうんざりしていた人は、読むときっと爽快な気分になりますよ。

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