Clemmensen 還元やってみた2015/08/31(月)
以前、Wolff-Kishner 還元の話を書きました。その時に、「酸性条件では Clemmensen 還元、塩基性条件では Wolff-Kishner 還元、と覚える、けど Clemmensen 還元はあまり使わない」と書きました。実は私は今まで一度も Clemmensen 還元をやったことがなかったのです。ところが、先日ある研究計画を立てていたところ、途中に Clemmensen 還元を使う合成が必要になることがわかりました。これはやるしかないでしょ、ということで、(講義のない夏期休暇中を利用して)やってみることにしました。有機化学歴 29 年にして、初めての Clemmensen 還元です。
最初に、亜鉛のアマルガムを作ります。文献を見ると、最初に Zn 粉末 (10.5 g) と HgCl2 (1.05 g) を 0.6 M 塩酸 (14 mL) 中で 20 分間撹拌する、と書いてあります。あまり深く考えずに、200 mL のナスフラスコに Zn 粉末と HgCl2 を入れて、上から塩酸を加えたところ、HgCl2 と Zn 粉末が接触しているところから急に発熱し始めました。こりゃイカン、固まっちゃうぞと慌てて撹拌を始めたのですが、時既に遅し。ごてっとした灰色の塊になってしまいました。
あとから考えてみれば当たり前の話です。亜鉛粉末は固まりやすいので、常に強く撹拌しながら取り扱わないといけないものだし、HgCl2 と Zn 粉末が激しく反応するのも当然です。予測できたトラブルなのですが、ちょっと考えが足りませんでした。反省。ともかく、何とかここから復活させるため、ステンレスの薬さじで塊を砕きました。フラスコの底を抜かないように注意しないといけません。ステンレスのさじの先がアマルガム化してきます。この薬さじもう使えないじゃないか。プラさじを用意しておくべきだったのかな…
気を取り直して、反応を仕込みます。8 M 塩酸 21 mL、原料のケトン 11 mmol、トルエン 70 mL を加えて加熱還流します。塩酸を加えた時に、激しく泡が出ました。亜鉛と塩酸だから、そりゃ水素が発生するわな、と思いつつ、これは亜鉛表面がアマルガムで覆われてない、ということじゃないの?という疑念も発生します。文献では「16 時間加熱還流する」と書いてあったのですが、結局 16 時間後にチェックすると原料が半分以上残っていました。さらに2日間加熱還流しましたが、結果は変わらず。これは失敗ですね。反応混合物を回収してやり直しです。トルエンではとけにくいので、酢酸エチルやクロロホルムも使って、反応混合物を回収しました。
今度は慎重にやります(←最初から慎重にやれよ)。亜鉛アマルガムを作るところがポイントに違いない。今回は、Zn 粉末をナスフラスコに入れて、先に 0.6 M 塩酸を加えて撹拌しておきます。そこに、HgCl2 をさじで少しずつ加えます。全体がやんわりと暖かくなり、泥をこねたような感じになってきます。塊にならないのはよい兆候です。
20 分後上澄みを除きます。今度は、8 M 塩酸を加えてもそれほど泡が出ません。水銀表面は水素ガスが発生しにくいのが特徴ですので、今度はよさそうです。16 時間加熱還流した後、TLC で調べてみると、無事反応が進行していました。
上から順に、今回の反応混合物、前回の反応混合物、原料。
画像は見やすいように加工してあります。切り貼りはしてないよ。
反応終了時のナスフラスコはこんな具合です。トルエンと塩酸が二層に分かれ、底に亜鉛アマルガムの残りが沈んでいます。
液体を分液ロートに移して、トルエンで抽出します。水層は「水銀を含む廃液」として保管して、まとめて廃棄物処理業者に処理を委託します。トルエン層を洗った水も同様に。水銀は絶対に排水に流してはいけません。
亜鉛アマルガムの残り。もちろんこれも、「水銀を含む固形廃棄物」として保管して、廃棄物処理業者に処理を委託します。
アマルガムの残りを固形廃棄物として保管容器に移したあとも、フラスコには水銀を含む固体が付着しています。これは濃硝酸で溶かして、水銀廃液と合わせます。下の通り、二酸化窒素が発生するので注意!
抽出した有機層を乾燥・エバポレートして、ようやく生成物が取れました。本当は結晶化するはずなんだけどな〜…明日になったら結晶化してるかな…?