Wolff-Kishner 還元2013/09/20(金)
ケトンのカルボニル基をメチレンに変える反応は、「酸性条件では Clemmensen 還元、塩基性条件では Wolff-Kishner 還元」と覚えることになっています。フルサイズの教科書(「概説」レベルじゃないやつ)なら必ず書いてあるでしょう。

現実のラボでは、Clemmensen 還元はあまり使いません。水銀を使うため、後処理が大変になるからです。アメリカの教科書や実験書には水銀を使う実験がわりと平気で書いてありますが、日本では抵抗を感じる人が多いと思います。
Wolff-Kishner 還元は、強アルカリ性で激しく加熱するという過酷な反応条件なのですが、アルカリに強い基質だと驚くほどうまくいくことがあります。私が学生の時に、こんな還元反応をやろうとしていました。

NaBH3CN/ZnI2 とか、NaBH4/CF3CO2H とか、接触水素添加とか、いろいろやってもなかなかうまくいかず困っていました。ふと思いついて(たぶん先輩か先生のアドバイスで)、Wolff-Kishner を試してみたら、これがうまくいったんですね。実験ノートに喜びの跡が残っています。
わざわざ赤ペンなんて使ってます。よっぽど嬉しかったんでしょう。この頃は字がきれいだったな…
ところが、ずっとあとになって、右側の環にメチル基が3つついた化合物を同じように作ろうとしたのですが、今度はうまくいきませんでした。原料のケトンがいつまでたっても残るのです。二匹目のどじょうはいませんでした。

理由はわかりません。立体障害が効いてるんでしょうか? この時は、還元反応をあきらめて、ケトンを経由しない方法で作ることで回避しました。なかなか狙った通りには進まないものです。