名城大学理工学部 応用化学科 永田研究室
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生成AIに頼りすぎると「頭が悪くなっていく」?2025/08/28(木)

 以下のポストが話題になっていますね。

紹介されている研究について、元論文を探してみました。これですね。専門外ではありますが、読んでみました。

ACM Conferences

The Impact of Generative AI on Critical Thinking: Self-Reported Reductions in Cognitive Effort and Confidence Effects From a Survey of Knowledge Workers | Proceedings of the 2025 CHI Conference on Human Factors in Computing Systems

The rise of Generative AI (GenAI) in knowledge workflows raises questions about its impact on critical thinking skills and practices. We survey 319 knowledge workers to investigate 1) when and how they perceive the enaction of critical thinking when using GenAI, and 2) when and why GenAI affects their effort to do so...

(2025年04月25日)

MDPI

AI Tools in Society: Impacts on Cognitive Offloading and the Future of Critical Thinking

The proliferation of artificial intelligence (AI) tools has transformed numerous aspects of daily life, yet its impact on critical thinking remains underexplored. This study investigates...

(2025年01月03日)

1つ目の論文は、マイクロソフトとカーネギーメロン大学の共同研究で、知的労働に従事する319人を調査して、生成AIを仕事に使う際に「批判的思考(クリティカルシンキング)」をいつ・どのように・なぜ行ったかを解析したものです。ここでの「批判的思考」は、生成AIが出した答えに対して、批判的に検討して次の行動(別のプロンプトを出す、答えを改良して成果物を仕上げるなど)を起こすことを指しています。その結果、生成AIの判断を信頼する人は批判的思考が少なく、自分の判断に自信を持つ人は批判的思考が多い、という傾向が見られました(そりゃそうでしょう)。

著者たちがこの研究を行った動機は、「生成AIは今後どのような機能を持つべきか」という問いであるようです。"Discussion"の章でその議論が行われています。上記の結果を受けて、著者たちは「(生成AIの)デザインは、これら(生成AIの判断への信頼と自分の判断に対する自信)のバランスをとることに注力すべきである。目標は、AIによる仕事の質を向上させることと、ユーザーが自分のスキルを開発するための力になる(そしてAIとのバランスのとれた関係を保つ)ことである」と述べています(6.1.1の第3段落)。

2つ目の論文は、スイスビジネススクールの研究です。AIツールが批判的思考能力にどのように影響を与えるのか、およびその影響に「認知的オフロード」がどう関わっているか、について検討しています。「認知的オフロード」とは、人間が脳で行う情報処理・記憶・判断などの機能の一部を、外部の道具に委ねることを指します。英国在住の666人に対して調査しています。

この論文には、肝心なところにエラーがあります。Table 3 は「AIツールの使用と批判的思考の相関」を示す、と本文にはありますが、Table 4 と全く同じ表が誤って掲載されています。このデータはこの論文の根幹になる重要なもののはずなので、このエラーはちょっといただけませんね。不注意な誤りに対する揚げ足取りのように思われるかもしれませんが、論文の根幹をなすデータに不備があるようでは、論文そのものの信頼性が疑われても仕方がないと思います。査読者は何をしてたんだ?? また、4.4 で再三登場する Table 6 は Table 7 の誤記でしょう。

本研究で、AIの使用頻度が高い人は、批判的思考が弱い傾向があることがわかりましたが、類似の結果は他の研究でもすでに得られていたようです(1つ目の論文でも似た結果が得られていました)。本研究での新たな知見の一つは「AIの使用頻度と批判的思考の相関には、認知的オフロードの多さが関連している」ことだということです(5.1の最初の2行)。このことから、特に教育環境において、「AIの利用と、批判的思考を促すこととの間のバランスをとる」ことが重要だ、と主張しています(5.2の5〜6行目)。これは1つ目の論文と同じ結論です。

今回紹介した2つの研究は、生成AIの使用と批判的思考能力の間に「負の相関がある」ことを客観的に明らかにしたものです。ここから「生成AIに頼りすぎると考える力が育たない」(頭が悪くなる?)という結論は直接には導かれません。明らかになったのは相関関係であって、因果関係ではないからです。生成AIを過度に使うことによって、「考える力が育たない」あるいは「考える力が衰える(頭が悪くなる?)」かどうかは、別の研究としてこれから明らかにするべきことです。ただし、どちらの論文でも「AIを使う場合は、同時に批判的思考を促す仕掛けが重要だ」という結論は一致しています。

「批判的思考能力」(要は「自分で考える力」)を育てることは、教育機関にとって大変重要なミッションです。1つ目の論文では、意欲的な人は「生成AIを使いつつ、それを使って自分の思考能力を向上させる」ことに価値を見出している、と報告されています(4.3.1、"Skill development"の節)。「自分の思考能力を向上させる」ことに価値を感じてもらうこと自体が、教育機関の果たすべき役割でもあるでしょう。

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