勝手に名前を使ってAI捏造論文を出すジャーナル2024/11/21(木)
土の研究で知られる藤井一至先生が、とんでもない体験をしていらっしゃいます。
恐怖!身に覚えのない論文が、私の名前で聞いたことない雑誌(ハゲタカ系?)に載っている。。。AIが書いたとしか思えない内容。所属はなぜか東大で、その中の部署は森林総研。メールアドレスはちょっとだけ違う笑 https://t.co/StyIPnk2rK
— 藤井一至 (土の研究者) (@VirtualSoil) November 9, 2024
さっそく読売新聞でニュースになっていますね。(私はこちらで先に見て、あとから藤井先生のツイートを知りました。)
「生成AIで日本人の研究者かたり論文捏造か、収入目的の海外サイト「ハゲタカジャーナル」に掲載 」(読売新聞オンライン, 2024/11/20)
「ハゲタカジャーナル」と呼ばれる雑誌は、業績を欲しがる研究者に食指を伸ばして、ほぼ無審査で論文を掲載してやり、その代わり高額な掲載料を要求する、というビジネスをやっています。この捏造論文の目的は、著名な筆者が寄稿しているように見せかけることで、雑誌のステータスを上げることなのでしょう。
著名な筆者のところには、これまでもこの手の雑誌から「掲載料を割引くから論文を出さないか」というお誘いメールが頻繁に来ていたと思います。うっかりこれに乗ってしまうと、悪徳雑誌の商売に手を貸すことになってしまいます。引っかかる人も減ってきたのでしょう。そこで、「どうせインチキなんだからニセの論文で水増ししてやろう」という話になってきたわけですね。いやはや、なんとも大変な世界です。
そもそもこういう雑誌は、業績がないと困る研究者相手のビジネスだったわけですが、「掲載料さえ払えばどんな内容でも論文の形で世に出てしまう」という重篤な副作用があります。フェイクが「論文」という形でお墨付きを得てしまうわけです。公衆衛生や防災などに関わる分野でこういうことが罷り通ると、公益を著しく害することになります。しかし、これをたとえば法律などで縛ってしまうのは、問題があります。そもそも日本では、憲法第23条(学問の自由)があるため、国が学術研究活動を制限することはできません。
そうなると、もはや私たち(研究者だけでなく一般市民も含めて)ができることは、そういうインチキな「論文」が世の中に存在する現実を認識して、できる限りまともなものとインチキとを切り分けられるように、判断力を磨くことしかありません。研究者はもちろん、研究経験のある学生(大学院卒の人は該当するでしょう)は、自分で判断できる力をつけないといけないし、一般市民は「判断する力のある人」の意見を尊重する必要があります。
「意見を尊重する」とは「大学の権威を(無条件で)守るべき」という意味ではありません。ある分野において一定の研鑽を積んだ人の意見には、それ相応の重みがあると認識して欲しい、ということです。応用化学分野で言えば、他分野の人・学部卒の人・修士卒の人・博士卒の人・博士取得後一定の年数研究を続けた人、と並べてみれば、後ろにくる人の方が(応用化学分野における)意見に重みがある、と言えるでしょう。単に学歴や職歴の話ではなくて、そのキャリアの中でどれだけの数の論文を読み、実践を積んできたのか、という話です。より多くの研究対象に接して、それについて考察を重ねてきた人の方が、信頼度の高い判断ができるに決まっています。
これは至極当然のことを言っています。しかし、SNSや動画配信全盛の現代社会では、あらゆる言説が相対化されて、「誰がそれを言っているのか」を全く度外視して、同じ重みで並べるような傾向が強まっています。これは本当に危険な風潮です。「専門家でない人の方が、従来の権威に曇らされない公平な視点を持っている」というのは幻想でしかありません。確かに、専門家でない人が、新鮮な視点を提供することはあるし、それは学問にとって重要な瞬間です。しかし、その視点を正しく発展させて新しい知見を確立するためには、十分な経験を持った専門家が関わることが不可欠です。この当たり前の認識を、できるだけ多くの人に共有していただきたいな、と願っています。