名城大学理工学部 応用化学科 永田研究室
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「核融合に関する有識者会議」の人選について2023/07/02(日)

一部界隈で話題のこの件、これはかなりまずいんじゃないでしょうか。

この方が「学位を持っていない」「科学的実績がない」ことが指摘されていますが、問題はそこではありません。この方は、室内の二酸化炭素をアルカリで吸収して二酸化炭素濃度を下げる装置を開発して特許を取り、学生のときに起業された方です。この装置の原理は中学校の理科レベルの知識で十分理解できる、極めてシンプルなものです。おそらく装置は期待された性能を問題なく発揮しているでしょう。そこまでは何の問題もありません。

問題は、この装置を開発したご自身を、まるで「地球の二酸化炭素問題を解決する世紀の大発明を遂げた」かのように宣伝して、自己プロデュースをされていることです。同様の装置をこれまで誰も実用化しなかったのは、長期的に見ればコスト面で全く合理性がないからであって、「この方の革新的な発想があった」というようなものではありません。それなのに、この方を「若き天才科学者・起業家」として持ち上げる経済系・教育系の記事が後を絶ちません。それだけ、自己プロデュースが本当に巧みなのだと思います。

私がいくつか読んだ記事(あえてリンクは張りませんが)では、この方の言っていることには、客観的な意味での「偽り」はありません。そうではなくて、実際にはすごくも何ともないことを「すごいんじゃないか」と思わせる話術があるのだと思います。たぶんこの方は、インタビュー相手の記者などが「え、それって当たり前ちゃうん?」とツッコむだけの力を持ち合わせていないことを見抜いているのだと思います。そういう相手を選んでインタビューを受けているのでしょう。

私がこの件で懸念するのは、このように「実はすごくも何ともないことをすごいように見せかける」能力が突出して高い人を、科学技術に関連する会議での「有識者」枠で取り扱ってしまうことです。この会議そのもので特に問題を起こすことはないかもしれませんが、このような「お墨付き」を与えてしまうことで、この方を「本当に科学技術について見識がある人だ」と誤解する人が今以上に増えてしまうことは明らかです。そういう人が「すごくも何ともない上にコスト面で不合理な装置」にお金をつぎ込むことは、科学技術にとって不幸であることはもちろん、経済の面でも問題があります。

文部科学省には、この人選について、何らかの責任あるアクションを起こしていただきたいと思います。さすがに、いったん任命した委員を(本人の過失が特にないのに)取り下げるわけにはいかないでしょうから、正しいアクションを起こすことは簡単ではありません。しかし、何のアクションも取らないのは極めて無責任だし、長い目でみると日本の科学技術に対する信頼度を大きく毀損することは確実です。関係各位の熟慮をお願いします。

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