名城大学理工学部 応用化学科 永田研究室
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「脱炭素」の大きな流れ?2022/01/06(木)

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

去年の後半ぐらいから、「脱炭素」というキーワードを頻繁に見かけるようになりました。「脱炭素」のコンセプト自体は2015年のパリ協定あたりから出てきたものですし、菅前首相が「温室効果ガスの排出をゼロにする」と所信表明したのは2020年のことですから、言葉自体はもっと前から言われていたはずです。それにしても、最近になって急に身近に見かける頻度が高まった気がするのは、文部科学省の方針か何かがあるんでしょうかね? 元旦の新聞には、名古屋大学さんが「脱炭素」を看板にした新組織を立ち上げる、みたいな記事が出ていましたし。

私は「人工光合成」を研究テーマにしています。増え続ける二酸化炭素をなんとかしたい、というのはこちらに着任して以来ずっと言っていることです。いわば「時流に乗ったテーマ」ということになるのかも知れません。そう、ようやく時代がワタシに追いついてきたのだ(←んなわけあるかい)。

テーマが(たまたま)時流に乗っていたとしても、やるべきことは何も変わりません。二酸化炭素の還元は、複雑な経路をたどる難しい反応です。どうやってこれをコントロールするのか、可能な道筋はいろいろあると思います。「これが決定版!」という道筋はないので、いろいろなことを試していかないといけません。

ちなみに、生物がやっているのは、エノラートによる求核付加反応でC-C結合を作った後、生成したカルボン酸を糖代謝の一般ルートに乗っけて還元する、というやり方。「二酸化炭素から糖を作る」と一般的に言われていますが、「糖をいろいろ変化させていく中で、いつの間にか二酸化炭素を取り込んでいる」という見方が正しいでしょう。これを実現するには、一つの反応系の中で「糖をいろいろ変化させていく」ことができるようにならないといけない。現代の化学の考え方からは、一段階飛躍が必要です。もちろん、生物のやっていることを真似ないといけない、という縛りがあるわけではありません。化学はもっと自由な発想を許してくれます。

二酸化炭素還元について、研究者として貢献したいのは当然なのですが、もう一つ大学教員として、重要な役割があると思っています。それは、「物質」「エネルギー」「エントロピー」の関連について、学生とともに理解を深めていくことです。これは、そもそもなぜこれまで「二酸化炭素の排出が避けられなかった」のか、という問題とも関連しています。対策をサボっていたから、というような単純な話ではありません。地球という閉鎖系(熱力学の用語で、エネルギーの出入りはあるが物質の出入りは無視できる系)の中で、80億人の人間が、これだけ複雑な活動を行い続けるためには、「増大し続けるエントロピー」をどこかに捨てないと勘定が合わないのです。エネルギーとエントロピーだけなら物理学の領域ですが、生命活動まで含めるならば、化学反応を必ず考慮しないといけません。これはまさしく化学の守備範囲です。

受験生のみなさんは、これから大学の出願先を決めるところだと思います。「化学」を学ぶための入り口は、なんとなく面白そうだから/高校の化学の授業が楽しかったから/実験をやってみたいから/就職に役立ちそうだから、など、なんでもいいと思います。ただ、「化学を学ぶ」ことは、実は「地球上で起きていることを、物質を起点として理解する」という壮大なストーリーにもつながっているのです。ぜひ頭の片隅に置いておいてください。

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