オープンアクセスジャーナルの近況2018/10/24(木)
「オープンアクセスジャーナル」とは、インターネット上で無償で見られる学術論文誌のことです。学術論文は、同分野の研究者による査読(公開前の論文を読んで、内容が妥当かどうかをチェックすること)を経て、「ジャーナル」と呼ばれる定期刊行物に掲載されます。通常のジャーナルは、雑誌の定期購読と同様に、読みたい人が講読料を払うことで、維持されています。これに対して、オープンアクセスジャーナルは、論文の著者が「掲載料」を支払うことで維持されているため、読みたい人は無償で読むことができます。
もともと、オープンアクセスジャーナルは、通常のジャーナルの講読料が際限なく高くなっていくことに対して、学界が危機感を覚えたことから生まれてきました。私自身、大学や研究所で「図書委員」の仕事をするたびに、年々膨らんでいくジャーナル講読料に図書館担当者が頭を抱えている様子を見てきました。Elsevier 社よ、オマエのことだ。
論文のオープンアクセス化の流れは、一つは物理学分野から、もう一つは生物学分野から始まりました。物理学分野では、出版前のプレプリントを著者が公開する習慣があったことから、受け入れられやすかったようです。生物学分野では、NIH (アメリカ国立衛生研究所)の Harold Varmus が 1999 年に発表した "E-Biomed" に関する提言で、生物学に関する論文を NIH の管理のもとで無償公開しよう、と提案したのが始まりです。その後、Varmus が設立に関わった PLoS (Public Library of Science) がオープンアクセスジャーナルの刊行を始めました。中でも、「オープンアクセス『メガ』ジャーナル」と呼ばれる PLoS ONE は、あらゆる分野の論文を簡単な査読で受け入れるという斬新な方針で、急成長しました。
PLoS ONE 以降、同じような「メガ」ジャーナルが他にも創刊されています。たぶん一番勢いがあるのは Scientific Reports でしょう。Nature Publishing の系列であるというブランド力 (?) は大きい。2017年4月には、掲載論文数で PLoS ONE を追い抜いたそうです。化学系の論文でも、Scientific Reports 掲載のものにちょくちょく出会うようになりました。PLoS ONE に出会うことは少ないので、化学分野では Scientific Reports の方が人気がありそうです。
学会系のジャーナル(出版社ではなくて、各国の専門分野の学会が出版しているジャーナル)の中にも、オープンアクセスのものが増えてきました。化学分野で言えば、英国王立化学会は、看板ジャーナルである Chemical Science を「高品質な論文を掲載するオープンアクセスジャーナル」と位置付けて、審査を通った論文は掲載料も閲覧料も要さない、という方針を打ち出しています。アメリカ化学会の ACS Central Science も同様です。また、アメリカ化学会は「メガ」ジャーナルとして、ACS Omega というのも立ち上げました。毎日10報以上の論文が公開されています。掲載料は 750 USD なので、安くはありませんが、オープンアクセスの掲載料としてはそう高いわけでもありません。「メガ」ジャーナルだから査読は簡素化されているはずですが、ざっと論文を見た感じでは、かなりちゃんとしてそうです。掲載のハードルがどれぐらい高いのか、一度投稿してみたいと思います。(その前に結果を出さんと…)
…ここまで書いてきて思ったんだけど、日本の出版社とか学会ってどう動いてるんだろう。上のを書くのに日本人研究者の解説記事もかなり参考にさせていただいたんですが、日本の話がぜんぜん載ってなかったんだけど…