「元素をめぐる美と驚き(上・下)」(H. A. ウィリアムズ著)2017/09/20(水)
いやあ、これはすごい本だ。各章でほぼ1つの元素をとりあげて、歴史・地理・文学・絵画・映画など、文化のほとんどあらゆる分野の話題をちりばめて論じています。読むのに大変な教養が要求されますよ。私は力不足を痛感しました。ついていけない話題が多いんだもの。
著者はロンドン生まれで、ケンブリッジ大学で自然科学を学んだ後、ジャーナリストとなって科学・デザイン・建築についての書物を著しているとのこと(本書の著者紹介による)。文章はいかにもイギリスの教養人らしく、控えめな筆致で、ややもったいぶっていて、ひっそりとユーモアを漂わせています。各章の終り方がとても特徴的です。たいてい「ぷつっ」と突然終わるんだけど、妙に余韻が残ります。こういう文体、私は好きですね。
解説の佐藤健太郎さん(サイエンスライター)も書かれていますが、こういう博覧強記の権化のような本は、なかなか日本人には書けないんじゃないでしょうか。なんというか、一般教養の圧倒的な差を感じます。日本では「(知識の)守備範囲が広い」というのがあまり尊敬の対象にならない、という文化的背景もあるのかもしれません。
ちょっと質が違うんですが、D. ホフスタッター氏の名著「ゲーデル・エッシャー・バッハ」の訳者が、「これは肉食民族にしか書けない本だ」と評していたのを思い出します。なんか、「分厚い」んですよね。物理的にも内容的にも。世の中うすっぺらい本が多いんで、たまにはこういう本と格闘してみるのもいいかと思います。