「安定する」って言うな!2016/09/01(木)
私が目のカタキにしている日本語表現の一つに、「安定する」というのがあります。
- (誤)エノラートは負電荷の非局在化によって安定する。
- (正)エノラートは負電荷の非局在化によって安定化する(または安定である)。
レポートなどでこれを書かれると、かならず赤ペンで修正します。何回修正しても直さん奴がおるんですよね。そういう奴はしっかり単位落としてますけどね。(別に「安定する」で減点されているわけではなくて、私の添削を無視している=普段からまともに勉強していない、というだけの話ですが。)
辞書で「安定」を調べてみますと、「安定(名・形動)スル、落ち着いていて変動の少ないこと」(スーパー大辞林)とあります。名詞(安定)・サ変動詞(安定スル)・形容動詞(安定ダ)がすべて書かれているので、もちろん「安定する」自体は誤用ではありません。ちなみに、古い辞書を見ると、形容動詞が書かれていないものがありました(三省堂国語辞典初版、昭和35年)。これを見る限り、昔は「安定だ」の方が誤用だったのかもしれません。
しかし、化学変化や物質の性質について記述するとき、「安定する・しない」という表現には非常に違和感を感じます。「安定する」という語には、「自律的に変動の少ない状態を保つ」という意味がこめられているように思います。一方、化学物質の安定性について言及する時は、ほぼ確実に「何かある物理的な要因によって、物質のエネルギーが低下している」という文脈で議論が行われます。必ず他に要因があるわけです。だから、「安定化する」とは言うけど、「安定する」とは言わない。エネルギーが低い状態を指して「安定だ」とは言うけど、その状態に移行することを「安定する」とは言わない。
国語辞典の編纂者には、「【化】物質について、化学変化が起きにくい」という語意の後に、「サ変動詞としては『安定化』を用いる」と付け加えていただけたらなあ、と思っています。それとも、こんなことを気にしているのは私だけなんですかね?