名城大学理工学部 応用化学科 永田研究室
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放射性元素の半減期を減少させる?2014/01/14(火)

最近、原子力発電の廃棄物処理に関して「放射性元素の半減期を劇的に減少させる新しい技術がある」という主張をときどき見かけます。放射性元素の半減期というのは原子核の性質ですから、原子核を変化させない限りどのような化学的・物理的・生物学的処置をしても変化することはありません。ですから、上記の「新しい技術」というのは、原子核を変化させる、つまり核反応を起こす技術であるということになります。現在知られている核反応は、原子炉の中・原子爆弾の爆心・太陽の中など極限条件で起きるものだけですが、上記の主張をしている人は、これ以外にもっと温和な条件で起きる核反応があると言いたいのでしょうか。

全部の主張をチェックしたわけではありませんが、少なくともいくつかの主張は「常温核融合」を使うとしているようです。常温核融合は、1989年に報告されてから数年の間大流行した研究ですが、現在ではその報告のほとんどは誤りであったと結論づけられています。この時の常温核融合は、パラジウムなどの金属を電極にして電気分解を行うことで、電極中に重水素の原子核が高密度に蓄積し、核融合を引き起こすという主張でした。現在でもこのコンセプトを信じて研究を続けている人は少数おられますが、有用な結果が得られる見込みはほぼないとほとんどの研究者が考えています。

このような状況であるのに、常温核融合の技術を使って放射性元素を処理する画期的な方法がある、と主張するのは、極めてミスリーディングで、将来に禍根を残す行動だと思います。原子力発電の廃棄物処理は、現存の技術では極めて不満足な解決方法しかなく、しかも子孫の代にまで長く負担を強いるものです。現状では空想の域を出ない「新技術」なるものに期待をかけて、これで安心とばかりに廃棄物を出し続けたりしたら、とんでもないことになります。放射性元素の処理法の研究を(核反応の可能性も含めて)推進することは好ましいと思いますが、実用化の見通しについては、信頼できる基礎研究の結果に基づいて厳しく評価すべきでしょう。

私自身は、原子力発電の必要性を認めています。しかし、福島の事故で明らかになった原子炉の安全担保の困難さ、放射性廃棄物の処理の困難さ、ウラン燃料の資源量など数多くの問題があるため、原子力発電への依存度をなるべく下げる努力が必要だと考えています。もっとも、ゼロにすべきかどうかは、議論の余地があるとも思います。とにかく、雰囲気に流されるのではなく、明確な根拠に基づいた合理的な議論が広まってほしいものです。

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