アシモフの化学エッセイ2013/11/13(水)
アイザック・アシモフ (1920-1992) は私の世代の若い頃に大きな影響力を持っていた作家です。SF小説が本業なのですが、ノンフィクションでも膨大な数の著作があります。アシモフは大変に博学な人で、自然科学をはじめとして歴史・宗教などあらゆる分野について本を書いています。中でも、生化学分野は博士号をお持ちということもあって、特に筆がさえています。そもそも化学分野というのは、従事人口が多いわりに、面白い読み物を書ける人材が案外少ないように感じます。どうしても実用方面に目が向いてしまうからでしょうか。
アシモフの単発エッセイで化学分野のものが、ハヤカワ文庫のノンフィクションシリーズ「空想自然科学入門」「地球から宇宙へ」「わが惑星、そは汝のもの」などに収録されています。私が特に印象深く読んだのは、「実現しなかったノーベル賞」(原子番号発見の物語、「わが惑星、そは汝のもの」収録)、「増殖する元素」(希土類発見の物語、「わが惑星−」収録)、「実験室に死す」(単体フッ素単離の物語、「地球から宇宙へ」収録)あたりです。いま本が手元にないので、訳題はうろ覚え。高校の時に買って読みふけったあと、実家に置いてきて、その後いつのまにか処分されてしまいました。ちゃんと買い直さないといけないな。
アシモフのエッセイは、登場人物が生き生きと描かれているところがいいのです。たとえば、原子番号発見の物語では、特性X線と原子番号の関係を発見した若き物理学者ヘンリー・モーズリーが主役です。化学の発展が、単なる事実の羅列ではなくて、生きた人間の仕業として印象深く迫ってきます。40年以上前に書かれた本ですので、記述内容には古いところもありますが、化学史のトピックはそうそう書き換えられるものではないので、今読んでも十分に楽しめます。
最近、同じアシモフの「化学の歴史」というのも読んでみたのですが、こちらはちょっと期待外れでした。一冊の本に化学史全体を詰め込もうとしたためか、一つ一つのエピソードがあまり印象的に描かれていないのです。流れを把握するにはいいのだろうけど、一つのトピックに絞って紹介した方が読み物としては面白くなるようですね。
これらのエッセイを原文で読んでみたいのですが、どうやら絶版でなかなか手に入らないようです。英文多読のテキストとしてもいいんじゃないかと思うんだけどなあ。