名城大学理工学部 応用化学科 永田研究室
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錯体化学会第63回討論会2013/11/05(火)

琉球大学で開催された錯体化学会第63回討論会に行ってきました。ウェブサイトには美しいビーチの写真が出ています。なんだ遊びに行っていたのか、と誤解されそうでちと困ります。錯体化学会の討論会は分野別の学会としてはかなり規模が大きいもので、口頭発表が11会場に分かれています。このため、聞きたい発表が同じ時間帯に組まれてしまったりして、若干不便です。本来討論会は1つか2つの会場で集中して討論するものなのですが、錯体化学は対象分野が極端に広いので、やむを得ないところはありますね。そのかわり、ポスターセッションは口頭発表と完全に時間を分けて開催されるため、毎回大盛況です。

いろいろ情報収集してきました。人工光合成関係だと、酸素発生をコバルト錯体触媒でやる研究に興味を惹かれました。植物の光合成の酸素発生中心はマンガンとカルシウムの5核錯体なのですが、マンガン錯体というのは取り扱いが大変に厄介で、みなさんの苦労の種になっています。私もマンガン錯体を使った経験がありますけど、一生懸命デザインしてもその通りの物質が全然合成できないので、大変にストレスを感じたものです。マンガンは2価イオンだとすぐ配位子交換してしまうし、高原子価だとオキソ架橋でぺたぺたくっついてすぐ酸化物の沈殿になってしまいます。植物の場合はタンパク質が配位子として働いて、望みの構造を保つ役割を果たしているわけですが、人工分子で同じことをやろうとしても、やたら手間がかかる割に凡庸な結果しか出なかったりします(私自身の体験談です…たぶん化合物のデザインがよくないんでしょうね…)。

コバルトは錯体化学的にはマンガンよりもはるかに扱いやすいので、コバルトで効率のよい触媒が作れるのであればおいしい話です。ただ、みなさんの発表を拝見している限りでは、抜群に効率のよい触媒が見つかった、という話にはまだなっていないようです。うちの研究室でも、コバルト錯体に関しては若干の経験がありますので、機会があれば挑戦してみたいところです。

二酸化炭素の還元もいろいろ報告はありましたが、「これだっ」とみんなが飛びつくような画期的な発見には至ってないようです。こちらの方は、金属錯体にこだわらない方がいいのかなと個人的には感じています(もちろん、今回は錯体討論会ですから錯体触媒の話しか聞けなかったわけですが)。生体のカルビン・ベンソン回路は基本的には有機反応だし、電気化学的にもピリジニウムを触媒とする電解還元の報告があったりします。研究分野にあまりこだわると道が狭くなってしまうので、注意しようと思います。

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