シクロヘキサン環反転の量子化学計算2013/10/25(金)
今週の有機化学1の講義はシクロヘキサンの環反転を取り扱いました。こういうやつですね。
環反転の様子はなかなか紙の上で見ていてもイメージしにくいものです。かといって、分子模型を組んだらわかりやすいかというと、案外そうでもなかったりします。いす形シクロヘキサンはきれいに作れるのではっきりイメージできるのですが、いざこれをねじって環反転させようとすると結合がぽろっととれたりしてなかなか面倒です。しかも、舟形はともかく、半いす形はなかなかそのままの形を保ってくれないので(不安定形なので当然ですが)、手で押さえながらあちこちの角度から眺める、というアクロパットな技が必要になります。
パソコンでスクリーンに映して見てもらう方がいいんじゃないか、と思って、モデリングをすることにしました。使ったのは GAMESS、理論レベルは PM3(一番ラフな計算)です。計算自体は MacBook (Core 2 Duo) で1分もかかりませんが、遷移状態を探して反応経路解析をしますので、案外手間がかかります。詳しく書くと長くなってしまうので、取り急ぎ概要を紹介します。GAMESS のインプットファイルもつけておきますので、試せる環境にある人はぜひやってみてください。(間違いがあったらこっそり教えてね。)
- 舟形遷移状態を探すため、舟形に近いと思われる構造を手動で作ります。
- この構造について、RUNTYP=HESSIAN, HSSEND=.T. というキーワードを入れて計算すると、振動数が計算できます。wxMacMolPlt で読み込んで、負の振動数があることを確認します。cyclohexane-1.inp
- 同じ構造について、RUNTYP=SADPOINT, HESS=CALC, HSSEND=.T. として遷移状態への最適化を行います。無事舟形遷移状態が現れます。wxMacMolPlt で見ると、負の振動数が1つだけあることがわかります。cyclohexane-2.inp
- 舟形構造から出発して、IRC(反応経路解析)の計算をします。前の計算結果の DAT ファイルから $HESS グループをコピーする必要があります。ちゃんとねじれ舟形になります。 cyclohexane-3.inp
- 同じ構造から出発して、今度は FORWRD=.F. として逆向きの経路をたどります。逆向きのねじれ舟形がでてきます。ちょっと感動しました。 cyclohexane-4.inp
- 半いす形はちょっと苦戦しました。手動で半いす形に近そうな構造を作ってみたところ、負の振動数が2つあります。 cyclohexane-5.inp
- ここから RUNTYP=SADPOINT で遷移状態を探してみましたが、エラーメッセージが出て異常終了。しかし、最終構造を見ると半いす形にわりと近そうです。 cyclohexane-6a.inp
- その最終構造を使ってもう一度 RUNTYP=SADPOINT で遷移状態を探します。今度は収束しました。 cyclohexane-6b.inp
- ここから出発して IRC を計算します。ちょっと設定を変える必要がありましたが、無事ねじれ舟型に収束しました。 cyclohexane-7.inp
- FORWRD=.F. としてもう一度 IRC を計算すると、いす形になりました。いやあ、ちゃんとできるものですね。 cyclohexane-8.inp
使ったソフトウェアは、GAMESS, GAMESSQ, wxMacMolPlt, Molby(自作)です。全部無償で利用できます。最後のはともかく、初めの3つは教育機関にとっては特にうれしいソフトウェアです。
(2013/10/28 図を追加。一部本文も改訂しました。)