2013年ノーベル化学賞:QM/MM2013/10/09(水)
2013年のノーベル化学賞が発表されました。受賞者は Martin Karplus 教授(ストラスブール大・ハーバード大)、Michael Levitt 教授(スタンフォード大)、Arieh Warshel 教授(南カリフォルニア大ロサンゼルス校)の3人。受賞理由は「複雑な化学システムの階層的モデルの発展」ということです。いわゆる QM/MM (Quantum Mechanics/Molecular Mechanics) と呼ばれる手法です。詳しくはノーベル財団のプレスリリースや関連情報をご覧いただくのがよいのですが、ごく簡単に解説すると、巨大な分子の振る舞いを計算機で予測するときに、分子の大まかな形を計算するための「分子力学」(MM) 手法と、化学反応に関わる部分を詳しく計算するための「量子力学」(QM) 手法とを組み合わせる方法です。組み合わせる、と言っても、単に「まず形を計算して、それから化学反応の部分を計算する」みたいな単純な組み合わせ方ではいけません。化学反応が進行するにつれて分子の形も変わり、その変わり方によって反応性が刻一刻と影響されるからです。
私は MM も QM も使ったことがありますが、QM/MM を使う機会は今までついにありませんでした。キノンプールの反応を計算機で追いかけるような仕事をすればその機会があったかも知れませんが、まあ私は基本的には実験屋ですから、実験で追いかける方が性に合っています。でもやっぱり、実験ではどうしても見えない部分というのがあるわけで、特に大きな分子ではそれが顕著になります。そんな時に分子シミュレーションは強力な援軍になりますよね、というような話をしていたら、分子シミュレーションを長くやってこられたある大先生が「まーシミュレーションなんて嘘っぱちですからね」と平然と言い放って、その場にいた一同が凍り付いたこともありました。そんな自分の研究人生を全否定するようなことを言わんでも、と。