配位子交換反応の速度論解析2026/07/13(月)
先日投稿した論文のレフェリーコメントで、配位子交換反応の速度論解析を求められました。こんな反応です。
測定は難しくありません。1H NMR で A, B, C, D のシグナルをそれぞれ分離して観測できるので、たとえば C の生成率を積分強度から求めて、その時間変化を解析すればよいわけです。
簡単じゃん、と指数関数でカーブフィッティングして、k1とk-1を決めて、さて本文を書こうとしたとき、ふと引っかかりました。「え、速度定数の単位はどうなる? これ二次反応だよな? 今自分一次反応で解析しなかったか??」
そうです。単純な指数関数でフィッティングする、というのは、一次反応の速度式を仮定していることになります。ここでは、[A]0 = [B]0, [C]0 = [D]0 = 0 の条件で反応させているので、擬一次の条件には当てはまりません。あかんわ、速度式を立てるところからやり直しやん……
これが実はなかなか難物でした。手持ちの教科書をいくつかめくってみましたが、記述がありません。可逆反応じゃない系なら、[A]0 = [B]0 の反応は「二次反応の特別な場合」として紹介されているのですが、可逆な系の取り扱いを発見することができませんでした。しゃあない、自分で解くか。
[A]0 = [B]0, [C]0 = [D]0 = 0 という初期条件のもとで、[A] についての速度式を立てると、下のようになります(以下、速度式中では、濃度を示す角カッコを省略しています)。
少し見通しが悪いので、転化率 x = (A0 – A) / A0 を使い、kf = A0k1, kb = A0k-1 と置き換えて、以下のように書き換えます。
このままでも解けますが、あとでフィッティングすることを考えると、「平衡に到達した時の転化率」 xeq を独立のパラメータにしておくのが便利です。x = xeq のとき、dx/dt = 0 になることから、以下の関係式が得られます。
これを使って一つ前の式から kb を消去して、下の式を得ます。
この微分方程式を解きます。両辺の逆数をとって、右辺を部分分数分解して、x について積分すると t = … という形になり、それを x について解きます。できますよね? できてください(笑)
kapp と書いたのは、「見かけの速度定数」で、下のように定義されます。
kapp と xeq をパラメータとして、カーブフィッティングを行います。
先ほどのカーブフィッティングのプロットとほとんど変わりませんが、パラメータの意味が明確に決まっていることが大事です。ここから二次速度定数を決めて、適切に議論を進めることができました。
