名城大学理工学部 応用化学科 永田研究室
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「学校がウソくさい」(藤原和博著、朝日新書)2024/01/29(月)

自称「教育改革実践家」の藤原氏による、現代の学校教育への提言の書です。藤原氏は、よく知られている通り、2003年に杉並区立和田中学校の民間出身校長となり、実践を通じて教育界へさまざまな提言をしてこられた方です。教育評論家や研究者の人とは違って、実践ベースの提言なので、なかなか説得力があります。たいへん興味深く読みました。

本書を読んで、印象深かったところを3つ挙げます。1つは、「授業の一部は『最高のオンライン先生』の動画でいいと割り切る」(本書171ページ)ということです。授業のうち、「知識の伝達」に関わるところは動画で行い、教員は「知識の定着と活用力」の向上に集中する、というやり方です。授業についての考え方を根本的に再定義することになります。反転授業にも通じますね。ただ、完全な反転授業では「自主学習」ができる人とできない人に大きな差がついてしまいます。これを避けるには、例えば授業時間中に動画を見てもらい、それに続いて演習やグループディスカッションをやる、というやり方が考えられます。このあたりは、授業の実践方法についての研究を見てみたいところです。

2つ目は、「正解がない問題をどう解くか?」という問いについての見解です。本書は以下のように説きます。

正解がない問題をどう解くか? そのために必要なのは、まずは自ら仮説を出して、他者の意見も聴きながら「自分が納得し、かつ関わる他者をも納得させられる解」を導く力だ。(本書211ページ)

これは明快です。藤原氏は、この解を「納得解」、それを導く力を「情報編集力」と呼んでいます。この考え方は、大学の卒研レベルでも通用するもので、汎用性は相当高いといえます。教育者がこの視点を持ち、かつそれを言語化できることは重要ですね。

3つ目は、上記の「情報編集力」と、従来の教科がカバーする「情報処理力」との関連です。本書251ページの図によれば、「情報編集力」は「コミュニケーション・リテラシー(国語・英語)」、「ロジカルシンキング・リテラシー(数学)」、「シミュレーション・リテラシー(理科)」、「ロールプレイ・リテラシー(地歴公民)」に分類され、それぞれの従来教科と関連づけられる、となっています。「理科はシミュレーション・リテラシーを育てる」という考え方は面白い。

なお、この本は小・中・高の教育についての内容で、大学教育には触れていません。大学の話は、文部科学省の仕事をいかに減らすか(「そう、大学を半分潰せばいいのだ」、本書278ページ)、という文脈で少し登場するだけです。小・中・高の教育と比べると、藤原氏の大学教育に関する認識は、ずいぶん雑で解像度が低いな、と感じました。まあそれはともかく、高校教育と大学教育はつながってますから、高校までの教育の実践で有用な手法は、ある程度大学教育にも通用するはずです。この本をきっかけに、自分の教育観をアップデートしていこうと思っています。

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