名城大学理工学部 応用化学科 永田研究室
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Nature にリジェクトされた論文2023/10/07(土)

今年のノーベル生理学・医学賞(最近はこの順序で表記するらしい)は、すでにみなさんご承知の通り、mRNA ワクチン技術の基礎となった「mRNAの塩基修飾の生理的効果」の発見に対して授与されました。最初の成果は Immunity という雑誌に発表されましたが("Suppression of RNA Recognition by Toll-like Receptors: The Impact of Nucleoside Modification and the Evolutionary Origin of RNA", K. Karikó et al. Immunity, 2005, 23, 165-175. DOI: 10.1016/j.immuni.2005.06.008)、この論文は一度 Nature にリジェクトされたそうです(未確認)。それに関して、「ノーベル賞を受賞した論文をリジェクトした Nature の編集者にインタビューしました!」というジョーク記事が出ました。爆笑必至。

ぜひ原文で読んでみてください。笑えるポイントがいくつもありますが、私には下のやりとりがツボでした。MB はこのポストの筆者(Mushtaq Bilal氏)、NE は(架空の)Nature Editor です。

MB: Have you considered adding it to your CV, “Professional Rejector of Groundbreaking Work?”
あなたは自分の履歴書に「画期的研究のリジェクトのプロ」と付け加えることは考えましたか?

NE: That's a good one. I am thinking of starting a new journal called “Nature Rejected” in which I will publish every paper rejected by Nature.
それはいい考えだ。私は "Nature Rejected" という新しいジャーナルを創刊して、Nature にリジェクトされたあらゆる論文を載せようと考えている。

MB: Sounds like a best-seller to me…
それはベストセラーになりそうですね……

「リジェクトのプロ」のくだりについて、ちょっと説明が必要かもしれません。普通の学術誌では、投稿された論文は匿名のレフェリーによって審査されて、掲載の可否が決まります。しかし、Nature のように非常に多くの論文が投稿される場合、全部をレフェリーに回すのは大変な手間なので、編集者の判断でレフェリーに回さずに掲載不可とすることがよくあります。この論文も、そのように編集者にリジェクトされたものの一つだったようです。

Immunity 誌に掲載された論文を読んでみました。専門外なので正しく評価することはできませんが、「独創的な視点がない」と Nature 編集部が判断したのは、なんとなく理解できる気がしました。序論の部分を雑に読むと、「DNA では塩基の修飾が免疫系の反応に影響を与えている、そこで RNA で調べてみると、RNA でもそうであることがわかった」という内容に見えます。こんな風に読んでしまうと、あまり独創的な内容とは思えません。Nature の編集者はさすがにもっと丁寧に読んでいるはずですが、Nature の掲載基準である「大きな話題を引き起こす論文」とは判断されなかったのでしょう。なのに、18年後にノーベル賞ですからね。研究の価値を見極めるのはそれだけ難しい、ということです。

学術行政に携わっている非専門家の方々は、「研究を評価する目利きの人がいれば、トップレベルの研究に効率よく投資できる」と考えておられる(そうであってほしいと願っている?)フシがありますけど、そんなことはどう考えても不可能でしょう。投資する側としては、「選択と集中」はほどほどに行うこととして、同時に「裾野を広げる」ことを忘れないでほしいなと思います。

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