子ども新聞に大学研究費の話題2016/10/26(水)
中日新聞の日曜版には、「ジュニア中日」という子ども向けの記事が4ページ分折り込まれています。その一面では、前の週に起きた主要なニュースについて解説があるのですが、先日の紙面には「文部科学省は、大学から支給される研究費が年間100万円に満たない研究者が約8割だったとするアンケート結果を発表」というニュースが紹介されていました。これ、ジュニア中日で取り上げるべき話題なのか? 中日新聞さん、どういう意図なの?
まあ、確かにこれは重要な問題ではあります。大学での研究は、「競争的資金」(科学研究費など、特定のテーマを設定して申請し、審査に通れば支給される資金)と「経常的資金」(特定のテーマに関わらず、研究室の運営費として支給される資金)で運用されているわけですが、近年は経常的資金の割合がどんどん低下して、競争的資金が通らなければ研究が成り立たなくなってきています。特に、地方の国立大学でその傾向が著しく、「年間数万円」しか支給されない、という大学すらあります。数万円って、論文の複写料とかプリンタのトナーとかも含めてこの金額ですよ。そんな金額で、研究室を運営できるわけないじゃないですか。
大学の研究室をよく知らない人(または、文科系の研究室しか知らない人)は、「教員が好きな研究をやってるだけなんだろ、その程度で十分じゃないか」と言うかもしれません。ですが、そもそも大学での研究というのは、「学生に対して高度な教育を行うために」やるものなのです。ちゃんとした研究をやってない教員には、まともな大学教育なんてできるわけがない。私が担当している学部1〜2年生向けの講義ですら、「この化学反応は最近の研究現場ではどう解釈されているんだ?」という話を研究仲間としょっちゅう議論しています。ましてや、3〜4年生の講義や卒業研究などは、研究の現場で活動している(大活躍とは言わないまでも)人でないと、実りある内容の教育を提供することはできません。
競争的資金について、非常にリターンが大きいと思われるテーマに対して集中的に投入する、という発想はもちろん正しいと思います。しかし一方で、研究者が新しいテーマを立ち上げようとする際には、「まだテーマの形もはっきりしていないし、結果ももちろん出ていない」という時期が数年間続いたりするものなのです。そういう期間は競争的資金をとれないわけですが、それでも「最低限の研究」はできるようにしておかないと、新しいテーマが生まれて来る余地が全くなくなってしまう。ノーベル賞の大隅先生が受賞後の談話で「役に立つ研究ばかりが重視されているのは問題だ」と何度も言及されていたのも、この点と関係があります。新しい研究テーマなんて、役に立つかどうかわからんもんなんですよ。役に立つとわかっているようなテーマは新しいとは言えないんだから。
競争的資金の審査は公正になされていると私は感じていますし、萌芽的なテーマに競争的資金を投入する枠も運用されています。それでも、競争的資金に漏れた時に研究室が干上がらない程度の運用資金は、何とか確保していただきたいなと思います。私立大学では、学生さんに納めていただいている実験実習費で、最低限の活動は維持できています。国立大学でも実験実習費を徴収するのか?…うーん、また学費が高くなってしまいますよね…